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古本LOGOSの 月1,2回古書店。

光射すほうへ・・・(行けるかな?)

ある朝悪い夢から目覚めると、ザムザは学校勤務の職員になっていた。
あれ、昨日までは誰も来ない寒い店で古本を売っていたんじゃなかったっけ。八十四日間一冊も本が売れなかったので、どうしたことかと毎晩頭を抱えていたのだった。そうか、今は本を売る人じゃなくて、守る人・保管する人・貸し出す人になったのだった。
ザムザは公僕として、忠実に仕事をした。やらなけけばならない以上に、時間も精神も注ぎ込み、「あるべき姿」もしくは「ルール」を利用者に徹底しようとした。ところがやればやるほど、ザムザは周囲からういてしまうのであった。たとえば。黙って本を持ち出そうとする利用者に手続きをするよう、所定の用紙に記入する、もしくはカウンタで手続きするように声をかけると、その男は「チッ、うるさいヤツ」というような眼差しでザムザを侮蔑するのだった。まるでザムザがいることが悪いことでもあるように。今まで俺たちは、好き勝手にここにあるものを持ち出しても良かったのに。返すのも、読み終わってからで誰にも何も言われたことはなかったのに。2週間や3週間の貸し出し期間じゃこんなにたくさん文字がある本なんて読めやしない。ほかにもたくさん宿題があるのに。まるで、借りたものを期限以内に返せというザムザのほうが悪人になった気分だった。
ザムザは考えた。そうか、ここに必要なのは、本を管理する人ではないんだ。ただこの空間を利用者の好きなように使えるよう、控えめに、主張せず、理想を押し付けないひとが求められているのか。それなら自分はこれ以上ここにいる必要はないんだな。そう思ったら、なんだかひどく無駄な時間を費やしてしまったな、と思えた。
おりしも、特効薬のない悪いウイルスが流行しはじめた時期だった。住民は外出しないよう、施設やイベントも次々と閉鎖されている。もう誰もこの場所に来る人はいないようだ。そうか、俺も好きなところに行けばいいんだ。ザムザは突然すべてを了解した。
明日からは違うザムザとして、この世界に存在しよう、そう思った。
(このお話はフィクションです。/FB投稿より転載)

by iwashido | 2020-03-07 08:45 | Comments(0)

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